Aさんへ。
繋がることはなかったけど、ほんの一瞬でも興味を持ってくれて、
ありがとう
「◯◯くん、ちょっといいかな?」
授業が終わり、出来たばかりの新校舎3階の理科室から出たところで不意に、クラスメイトの女子に呼び止められた。あれは20年前の、いつだっただろう? 春過ぎて、初夏のころ? それとも秋のはじまりだったか……そこまではさすがに覚えていない。
ただ、ぼくが女子から呼び出しくらうなんて、この後の人生でもほんの数回しかない出来事で、しかもまあそういうのでは、この他に良い思い出は無い。
彼女の用事は――体育祭(かどうか、今となっては記憶が曖昧だが)の写真に写ったぼくに興味をもった他校の女の子が、ぼくに手紙を書いて欲しいというのだそうな。当時はまた携帯電話も普及してなかったし、メールという概念もぼくらにはなかったけど、文通なんかしたことないし、なんだか夢のような、出来すぎた話な気がした。
「……◯◯くん、聞いてる?」
「いや、ええっと……」
「うん、急な話でビックリしてるとは思うんだけど、いいでしょ?」
「ん……」
未だに騙されてるような気もするのだれど、特に断る理由もない。
しかしなんかこう、拒否権ない感じで言われると反発したい気もした。
「いいじゃん、ね!
私がちゃんと責任持って彼女に渡すから。
私がちゃんと責任持って彼女に渡すから。
今度会うのは来週だから、それまでにお願い!」
「う、うん……」
「内容なんか何だっていいんだって!」
この娘とは、そもそも親しいわけではなかった。いつもサバサバとしてて気が強くおてんばな感じにみえた彼女は、どうもぼくの苦手なタイプな気がしたんだけど……
「……いいよ」
「よかった! じゃあ私の分もお願いね!」
「えっ?」
「あ、アタシのも〜!」
そう言い残して〈2人〉は勢い良く階段を駆け下りていった。取り残されたぼくは、3階の窓から下の景色を見下ろしながら――季節が回り始めたのを感じることもなく――彼女に、いやアイツに何を書こうかぼんやりと考えながらクラスへの帰っていった。出来て間もない新棟の匂いはあまり好きではなかったど、教室移動はそれから好きになった。
(了)
(了)
これがいまの嫁との初めての出会い……とかだったら何かカッコイイんだけどねぇ(苦笑)
それでもなんだか不思議な縁を運んでくれた。
貴方は今、どこで何をしているんだろう……?
*相手の名前を思い出したので(!)改題しました(10/6)
*人物描写をしていないのはわざとです